- メーカー
- 独占禁止法
- 公開日
- 2020年04月30日 16:52
- 最終編集日
- 2022年04月22日 20:37
増加し続けるEC市場規模
経済産業省によると、平成30年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は、18.0兆円(前年16.5兆円、前年比8.96%増)に拡大しています。
また、平成30年の日本国内のBtoB-EC(企業間電子商取引)市場規模は344.2兆円(前年318.2兆円、前年比8.1%増)に拡大しています。
また、EC化率は、BtoC-ECで6.22%(前年比0.43ポイント増)、BtoB-ECで30.2%(前年比0.8ポイント増)と増加傾向にあり、商取引の電子化が引き続き進展しています。
グローバルで見た時の日本のネット通販と実店舗の価格差を見ると、日本の最安値の比率が高いことから価格統制の整備が遅れていることが考えられます。

物販系分野を商品カテゴリ別にみると、 市場規模の大きい順に以下 5 カテゴリー合計で物販系分野の 85%を占めており、 1 兆円以上の市場規模である
「衣類・服装雑貨等」
「食品、飲料、酒類」
「生活家電・AV 機器・PC・周辺機器等」
「生活雑貨、家具、インテリア」
「書籍、映像・音楽ソフト」
また、EC 化率については、高い順に以下となっており、特に「生活家電、AV 機器、PC・周辺機器等」は、商品仕様が明確で比較しやすくことから、アマゾンをはじめとするネット専業の小売事業者、およびヨドバシカメラやビックカメラといった家電量販店での指名買いを中心に伸びており市場が形成されていると考えられます。
「事務用品・文房具」(40.79%)
「生活家電、AV 機器、PC・周辺機器等」(32.28%)
「書籍、映像・音楽ソフト」(30.80%)「生活雑貨、家具、インテリア」(22.51%)
市場が大きいがEC化率が最も低いのは「食品、飲料、酒類」は、賞味期限や鮮度の問題、卸主体の取引形態から伸び率が低いと考えられます。

2017年公正取引委員会から小売業者に対しての質問の回答では、
内94%が「オンライン販売によるメリットがある」
77%が「オンライン販売により競争が激化した」
と回答しています。
またこれらの実際のデータからブランド力のない小中規模のEC小売事業者では、品ぞろえ、サポート体制、プロモーションコストに限界があり、ヤマト運輸や楽天市場の送料無料からも見える物流コスト増加の影響も大きいと考えらます。
さらに小売事業者が、自社取り扱い商品の露出拡大のためにECモールへ出店や価格comなど掲載型のサイトへプロモーションするほど、余計に価格競争にさらされるため、ブランド力がある商品でないと利益を増やしづらい傾向にあります。
様々な課題
EC市場規模の拡大に比例して、EC事業者同士の価格競争も激化しています。
その際に引き起こる課題として次のようなものが考えられます。
1)ECでの販売競争の実態とは
独禁法においては「流通業者間の価格競争を不当に減少、消滅させる」というメーカー側の行為を違法としていますが、ECでの販売競争の実態に即していない規制に見受けられます。
以下はプライスサーチforブランドで取得した主要な大手EC法人同士の値下げ競争の実態をデータとして取得したものです。

流通業者(小売店)も適切な価格競争を阻害するような値下げ意識がないものの、ECの実態として値下げ競争が始まると、
「販促費のコストが無駄になる」(棚場の確保も含む)
「売上が下がる」
「値下げすると利益が取れない」
などのことから、商品単位でも全体の流通に大きな影響を与えます。
2)小売業の課題
- 安くないと売れないので利益が減る
- 販促費、物流コスト、競合の値引きによる値決めの限界
- NB商品は固定客がつきづらく価格競争になりやすい
- 利益が少ないと広告などのプロモーション費も限られている
3)メーカーの課題
- 製品のライフサイクルが短くなる
- ブランド価値が低下する
- 卸先から値下げ交渉が入り利益が取れなくなる
- 「優越的地位の濫用」、「不当廉売」等によるリベート要求が激しくなる
- 不特定の流通販路での販売による品質、ブランド価値の低下
また小売業やメーカーといった売り手側の利益が下がり続けることで、
品質保証も含めて消費者へ良い商品を届けづらくなるリスクもでてきます。
現状、競争の維持については独占禁止法で守られていますが、競争により引き起こされる課題については、実態を踏まえた対策を考えていく必要があります。
独占禁止法とは、そもそもどんな法律?
独禁法は「一般消費者の利益保護と経済の健全な発達」を目的としており、健全な競争は経済を発展させる、とされています。
すなわち事業者間の競争を維持することで経済の発展を図る法律とされています。しかし現状は一歩間違えると「過剰な値崩れを引き起こす」ケースが多く見受けられます。
事業者がより高品質、低価格の製品を販売しようと競争すれば、消費者は自分のニーズにあった商品を購入できます。すると、事業者は消費者に選んでもらうためにさらにより良い製品を販売しようと競争し、消費者の選択肢が広がる…というサイクルが発生し、経済の発展へと繋がっていきます。

そのため、「事業者間の競争を不当に阻害」してしまうような要因は独占禁止法の規制対象となります。
価格調整は独占禁止法に違反する?
前述のように、事業者が市場の状況に応じて販売価格を自主的に決定することによって事業者間の競争と消費者の選択肢が確保されると考えられており、メーカーが流通業者の再販売価格を拘束してしまうと、「流通業者間の価格競争を不当に減少、消滅させる」ことから違法となってしまいます。
そのため、「販売価格の拘束」に当たることは原則として違法です。逆に言えば、拘束に当たらないことは違法ではありませんし、拘束に当たるようなことでも「事業者間の競争を促進する」ようなもの、「消費者の利益になる」ようなものであれば容認される可能性があります。
独占禁止法で禁止されていないこと
それでは、どのようなことが「再販売価格の拘束」と判断されてしまうのでしょうか?
拘束は「直接的な拘束」と「間接的な拘束」の2種類に分けられます。
やってはいけないことを概観し終わった上で、やっていいことなんてあるのか?価格調整なんて不可能ではないか?と感じるかもしれませんが、あくまで「拘束すること」が禁止されており「拘束にあたらないこと」は禁止されていません。
例えば、「参考価格」「メーカー希望小売価格」などの文言で販売してほしい価格を通知すること。
あくまで価格を決めるのは流通業者や小売業者であり、強制するつもりはないがメーカーとしてはこのくらいの値段で売りたい、と言う旨を通知すること、すなわち「価格調整をお願いすること自体は問題にはならない」と言えます。
流通業者やその販売価格を調査することも違法ではなく、公正取引委員会が公表するガイドライン上でも
「事業者が単に自社の商品を取り扱う流通業者の実際の販売価格、販売先等の調査(「流通調査」)を行うことは、当該事業者の示した価格で販売しない場合に当該流通業者に対して出荷停止等の経済上の不利益を課す、又は課す旨を通知・示唆する等の流通業者の販売価格に関する制限を伴うものでない限り、通常、問題とはならない」
と明記されています。
また、平成27年に導入された、「選択的流通」という制度があります。
メーカーが設定した「一定基準を満たす流通業者に限定して商品を取り扱わせる」場合、その流通業者に対し、「取り扱いを認めていない他の流通業者への転売を禁止する」ことができる、という制度です。
選択的流通はメーカーによる流通業者の選択ですが、メーカーが小売業者を適切な販売方法のために選択、制限することも可能であり、「小売業者の販売方法に関する制限」と呼ばれます。
例えば、対面販売が商品の適切な使用に必要不可欠な商品を、通信販売を行う小売業者への販売を禁止することなどが挙げられます。
違法性基準は選択的流通とほぼ同じと考えてよく、「消費者の利益を鑑みた合理的な理由」と「取引先全ての小売業者に対する制限基準の平等な適用」が重要です。
独禁法で禁止されてないことのまとめ
独占禁止法で禁止されていないこと | 注意点 |
販売価格の通知 | 指定価格で販売させることへの実効性が認められると違法 |
流通価格の調査 | 調査結果を用いて価格拘束すると違法 |
選択的流通 | 安売り業者排除が目的と判断されると違法 |
小売業者に販売方法に関する制限 | 安売り業者排除が目的と判断されると違法 |
まとめ
販売価格を実質的に拘束することは原則として違法ですが、販売価格のアドバイスや通知するにとどめ、自主的な価格設定の権限が流通業者や小売業者にあれば基本的に問題ありません。
流通価格の調査や選択的流通も公正取引委員会が公表するガイドライン上問題ないと明記されているため、課題対策として活用が見込めるでしょう。
※本記事は、弊社の最終的な見解ではなく再販売価格の拘束を促すものではございません。
※公正取引委員会が公表しているガイドライン及び独占禁止法を遵守いただくようお願いします。
独禁法の基礎知識の資料を無料でご提供しております!
2019年11月に開催した流通慣行ガイドラインのセミナーにて、メーカー様が関わる範囲を分かりやすくまとめた基礎知識の資料をお問い合わせ頂いた方に無料でご提供致しておりますので、ご興味ございましたら以下資料ダウンロードフォームをご確認ください!