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指定価格制度とは?メーカーが独占禁止法に違反しない販売価格の考え方

公開日
2020年04月30日 16:52
最終編集日
2024年07月18日 10:59

EC市場での取引が増加する中、価格競争が激化しています。
本記事では独占禁止法から考える適正な販売価格の考え方についてご紹介します。

増加し続けるEC市場規模

経済産業省によると、平成30年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は、
18.0兆円(前年16.5兆円、前年比8.96%増)に拡大しています。
また、平成30年の日本国内のBtoB-EC(企業間電子商取引)市場規模は
344.2兆円(前年318.2兆円、前年比8.1%増)に拡大しています。

EC化率は、BtoC-ECで6.22%(前年比0.43ポイント増)、BtoB-ECで30.2%(前年比0.8ポイント増)と増加傾向にあり、商取引の電子化が引き続き進展しています。

ECと実店舗の価格差

グローバルで見た時の日本のネット通販と実店舗の価格差を見ると、日本の最安値の比率が高いことから価格統制の整備が遅れていることが考えられます。

価格統制の整備状況

商品カテゴリ別のEC市場規模

物販系分野を商品カテゴリ別にみると、 市場規模の大きい順に以下 5 カテゴリー合計で物販系分野の 85%を占めており、 1 兆円以上の市場規模があります。

「衣類・服装雑貨等」
「食品、飲料、酒類」
「生活家電・AV 機器・PC・周辺機器等」
「生活雑貨、家具、インテリア」
「書籍、映像・音楽ソフト」

また、EC 化率については、高い順に以下となっており、特に「生活家電、AV 機器、PC・周辺機器等」は、商品仕様が明確で比較しやすくことから、アマゾンをはじめとするネット専業の小売事業者、およびヨドバシカメラやビックカメラといった家電量販店での指名買いを中心に伸びており市場が形成されていると考えられます。

「事務用品・文房具」(40.79%)
「生活家電、AV 機器、PC・周辺機器等」(32.28%)
「書籍、映像・音楽ソフト」(30.80%)「生活雑貨、家具、インテリア」(22.51%)

市場が大きいがEC化率が最も低いのは「食品、飲料、酒類」は、賞味期限や鮮度の問題、卸主体の取引形態から伸び率が低いと考えられます。

EC市場規模

EC市場拡大による価格競争の激化

2017年公正取引委員会から小売業者に対しての質問の回答では、

内94%が「オンライン販売によるメリットがある」
77%が「オンライン販売により競争が激化した」

と回答しています。

また、これらの実際のデータからブランド力のない小中規模のEC小売事業者では、品ぞろえ、サポート体制、プロモーションコストに限界があり、ヤマト運輸や楽天市場の送料無料からも見える物流コスト増加の影響も大きいと考えらます。

さらに小売事業者が、自社取り扱い商品の露出拡大のためにECモールへ出店や価格comなど、掲載型のサイトへプロモーションするほど、余計に価格競争にさらされるため、ブランド力がある商品でないと利益を増やしづらい傾向にあります。

様々な課題

EC市場規模の拡大に比例して、EC事業者同士の価格競争も激化しています。
その際に引き起こる課題として次のようなものが考えられます。

1)ECでの販売競争の実態とは

独禁法においては「流通業者間の価格競争を不当に減少、消滅させる」という、メーカー側の行為を違法としていますが、ECでの販売競争の実態に即していない規制に見受けられます。

以下はプライスサーチforブランドで取得した、主要な大手EC法人同士の値下げ競争の実態をデータとして取得したものです。

価格競争の実態

流通業者(小売店)も適切な価格競争を阻害するような値下げ意識がないものの、ECの実態として値下げ競争が始まると、

  • 販促費のコストが無駄になる(棚場の確保も含む)
  • 売上が下がる
  • 値下げすると利益が取れない

などのことから、商品単位でも全体の流通に大きな影響を与えます。

2)小売業の課題

  • 安くないと売れないので利益が減る
  • 販促費、物流コスト、競合の値引きによる値決めの限界
  • NB商品は固定客がつきづらく価格競争になりやすい
  • 利益が少ないと広告などのプロモーション費も限られている

3)メーカーの課題

  • 製品のライフサイクルが短くなる
  • ブランド価値が低下する
  • 卸先から値下げ交渉が入り利益が取れなくなる
  • 「優越的地位の濫用」「不当廉売」等によるリベート要求が激しくなる
  • 不特定の流通販路での販売による品質、ブランド価値の低下

また小売業やメーカーといった売り手側の利益が下がり続けることで、品質保証も含めて消費者へ良い商品を届けづらくなるリスクもでてきます。
現状、競争の維持については独占禁止法で守られていますが、競争により引き起こされる課題については、実態を踏まえた対策を考えていく必要があります。

独占禁止法とは、そもそもどんな法律?

独禁法は「一般消費者の利益保護と経済の健全な発達」を目的としており、健全な競争は経済を発展させる、とされています。
すなわち事業者間の競争を維持することで経済の発展を図る法律とされています。
しかし、現状は一歩間違えると「過剰な値崩れを引き起こす」ケースが多く見受けられます。

事業者がより高品質、低価格の製品を販売しようと競争すれば、消費者は自分のニーズにあった商品を購入できます。すると、事業者は消費者に選んでもらうためにさらにより良い製品を販売しようと競争し、消費者の選択肢が広がる…というサイクルが発生し、経済の発展へと繋がっていきます。

独占禁止法の考え方
事業者、消費者のサイクルにより経済発展へ

そのため、「事業者間の競争を不当に阻害」してしまうような要因は独占禁止法の規制対象となります。

価格調整は独占禁止法に違反する?

前述のように、事業者が市場の状況に応じて販売価格を自主的に決定することによって、事業者間の競争と消費者の選択肢が確保されると考えられています。
メーカーが流通業者の再販売価格を拘束してしまうと、「流通業者間の価格競争を不当に減少、消滅させる」ことから違法となってしまいます。
そのため、「販売価格の拘束」に当たることは原則として違法です。

逆に言えば、拘束に当たらないことは違法ではありませんし、拘束に当たるようなことでも「事業者間の競争を促進する」ようなもの、「消費者の利益になる」ようなものであれば容認される可能性があります。

独占禁止法で禁止されていないこと

それでは、どのようなことが再販売価格の拘束と判断されてしまうのでしょうか?
拘束は「直接的な拘束」「間接的な拘束」の2種類に分けられます。

やってはいけないことを概観し終わった上で、やっていいことなんてあるのか?
価格調整なんて不可能ではないか?と感じるかもしれませんが、あくまで「拘束すること」が禁止されており「拘束にあたらないこと」は禁止されていません。
例えば、「参考価格」「メーカー希望小売価格」などの文言で販売してほしい価格を通知すること。
あくまで価格を決めるのは流通業者や小売業者であり、強制するつもりはないがメーカーとしてはこのくらいの値段で売りたい、と言う旨を通知すること、すなわち「価格調整をお願いすること自体は問題にはならない」と言えます。

流通業者やその販売価格を調査することも違法ではなく、公正取引委員会が公表するガイドライン上でも「事業者が単に自社の商品を取り扱う流通業者の実際の販売価格、販売先等の調査(「流通調査」)を行うことは、当該事業者の示した価格で販売しない場合に当該流通業者に対して出荷停止等の経済上の不利益を課す、又は課す旨を通知・示唆する等の流通業者の販売価格に関する制限を伴うものでない限り、通常、問題とはならない」と明記されています。

選択的流通制度

また、平成27年に導入された、「選択的流通」という制度があります。
メーカーが設定した「一定基準を満たす流通業者に限定して商品を取り扱わせる」場合、その流通業者に対し、「取り扱いを認めていない他の流通業者への転売を禁止する」ことができる、という制度です。
選択的流通はメーカーによる流通業者の選択ですが、メーカーが小売業者を適切な販売方法のために選択、制限することも可能であり、小売業者の販売方法に関する制限と呼ばれます。

例えば、対面販売が商品の適切な使用に必要不可欠な商品を、通信販売を行う小売業者への販売を禁止することなどが挙げられます。
違法性基準は選択的流通とほぼ同じと考えてよく、「消費者の利益を鑑みた合理的な理由」「取引先全ての小売業者に対する制限基準の平等な適用」が重要です。

メーカー指定価格制度

メーカー価格指定制度とは、製造業者(メーカー)が自社製品の小売価格を小売業者に対して指定し、その価格で販売することを義務付ける制度を指します。
2020年にパナソニックが導入を開始した制度だと言われています。この制度の特徴は、小売店側にリスクを押し付けずに、メーカー側が安定して高い利益率を確保できるという点にあります。法律に違反せずに価格の指定ができる点からも注目が集まっている制度の一つであり、運用に注目が集まっている状態です。

メーカー指定価格制度はなぜ独占禁止法に違反しないのか?

メーカー指定価格制度が独占禁止法に違反しない理由は、メーカー側が在庫に関するリスクを負う形を採用しているからです。
仮に商品が売れ残ったとしても、小売店はメーカーに対して返品をすることができるのです。
例えば、メーカーに指定された価格が高いことが原因で売れ残りが出たとしても、小売店からメーカーに対して返金が行われるため、小売店は安心してメーカー指定価格で販売することが可能となります。
また、メーカー側が商品の棄損や滅失といったリスクも背負っています。
このように、メーカー側がリスクを負うことによって、実質的にメーカーが販売をしているのと変わらない状態と判断されるため、法律に違反しないのです。
公正取引委員会は、在庫に関する等に関するリスクを、家電メーカーが背負う場合には独占禁止法には違反しないと説明しています。

参考:公正取引委員会

実質的に見て商品を販売する取引先(小売店)が、単なる取次として機能する状態となっており、メーカーが販売者となるような状態を維持できていれば、独占禁止法の規定には抵触しないということです。

メーカー指定価格制度のメリット・デメリット

メーカー指定価格制度のメリットは、製品の価格が安定し、価格競争が激化するのを防げます。これにより、製品の価値が適正に評価されるようになります。また、価格が一定に保たれることで、ブランドの高級感や信頼性が維持されやすくなるのです。
消費者にとっても安値の価格を求めて店を行脚する必要性がなくなります。さらに、価格が安定することで、小売業者は適正な利益を確保できるため、販売活動に注力しやすくなります。また、値引き競争から解放されることで、サービスの向上に努める余裕が生まれます。

メーカー指定価格制度のデメリットは、小売業者が自由に価格を設定できないため、価格競争が制限され、消費者が商品を安く購入できるというメリットが減少する可能性があります。お客様は少しでも安く良い製品が欲しいと思う傾向にあるのです。また、メーカーにとっては、利益率は確実に伸びる一方で、売り上げは下がるリスクがあります。利益率が高まるため、長期目線では良い取り組みである一方で、目先の売り上げが減ってしまうのです。
このように価格が一定であることは、様々なデメリットを生む可能性があります。

メーカー指定価格制度を導入した事例

パナソニックは2020年度から、ドラム式洗濯乾燥機や、ナノケアドライヤーで試験的に指定価格制度を導入しました。2022年度にはその対象となる商品を拡大し、現在は国内における白物家電の約3割がその対象となっています。例えば、ドラム式洗濯乾燥機では販売金額の約8割が指定価格による販売です。2024年度は、白物家電全体で約50%にまで引き上げる計画です。

参考:インプレスウォッチ 高額家電は値引き不可? パナ・日立が進める「指定価格制度」とはなにか

また、日立も2023年10月から指定価格制度を導入し、ドラム式洗濯乾燥機の新製品2機種を対象としました。今後1年間で品ぞろえの約1割を、指定価格制度の対象にする目標を掲げています。

参考:東洋経済オンライン パナソニック「指定価格」導入に揺れる家電量販店
メーカー主導の「価格決定」に広がる期待と懸

小売店に関しては、好意的な反応を見せているところも存在しており、値引きできる下位製品への誘導などにより、お得感を演出することで購買を伸ばすという動きを考えているところもあるとのことでした。

参考:ITmedia NEW パナソニック「指定価格制度」 家電量販店はどう捉えているのか?

独禁法で禁止されてないことのまとめ

独占禁止法で禁止されていないこと注意点
販売価格の通知指定価格で販売させることへの実効性が認められると違法
流通価格の調査調査結果を用いて価格拘束すると違法
選択的流通安売り業者排除が目的と判断されると違法
小売業者に販売方法に関する制限安売り業者排除が目的と判断されると違法

まとめ

販売価格を実質的に拘束することは原則として違法ですが、販売価格のアドバイスや通知するにとどめ、自主的な価格設定の権限が流通業者や小売業者にあれば基本的に問題ありません。

流通価格の調査や選択的流通も公正取引委員会が公表するガイドライン上問題ないと明記されているため、課題対策として活用が見込めるでしょう。

※本記事は、弊社の最終的な見解ではなく再販売価格の拘束を促すものではございません。
※公正取引委員会が公表しているガイドライン及び独占禁止法を遵守いただくようお願いします。

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