差別対価とは(独禁法2条9項2号、一般指定3項)
事業者が競争者を排除するために、正当な理由なく、特定の地域や相手方において差別的な対価(安価)で商品や役務を供給すること。
どの程度の「差」があれば差別対価となるのか
①「略奪廉売型」
競合他社の特定の事業者だけをターゲットとして、
意図的な値引きによる競合他社の事業の継続を困難にする。
②「準取引拒絶型」
取引の相手方に不当に高く売ることにより、相手方の事業を意図的に困難にする
③「手段としての差別対価」
再販売価格の拘束など、独禁法上の目的を達成するために
特定の取引の相手がただけ卸し値を上げる、価格を維持するための手段など
「差別対価」と「不当廉売」の違い
間違えて解釈しやすい独占禁止法ですが、以下のように定義されています。
「差別対価」 → 「地域又は相手方」に対する差別
「不当廉売」 → 「必要な経費と販売価格の差」に対する差別
具体的な相談事例
1)独禁法上問題とならなかった事例
化学品メーカーA社の卸売業者に対する仕切価格の差の設定
A社は、化学品の甲という製品市場で有力なメーカーであるが、
「他にも有力なメーカーが複数存在」する。
甲という製品は、メーカーから卸売業者を通じてユーザーに販売されており、
昨今、「ユーザーからの値引要請」が強まってきていた。
A社製の取引先の卸売業者も、ある程度は「ユーザーからの値引要請に応じざるを得ない」が、
現在の仕切価格(卸売業者への販売価格)のままでは値引要請に対応し得なくなってきている。
A社では、これまで「仕切価格を一本」とし、事後値引きは一切行わないこととしてきたが、
他メーカーと競合する一部の製品について、「品目ごとに仕切価格の修正(品目により一律に1~3%引き)」を行うこと、
当該卸売業者における「メーカー別購入額順位の上位10位以内にA社が入る」に限定することを検討していた。
これに対して公取委は独占禁止法上問題にならない、としました。
問題とならない理由
(1)事業者が自社の商品や仕切り価格をどのように設定するか
本来自由であり、「取引先によって価格差が存在すること」自体は、直ちに違法となるものではない。
但し、意図的な自己の「競争者の事業活動を困難にさせる行為」や
「取引先の相手方を競争上著しく有利又は不利にさせる」おそれがあるなどの、
不当な目的を達成するための手段として用いられる場合、
「不公正な取引方法」に該当し違法となる可能性があります。
(2)A社の仕切価格の修正がA社の競争者や卸売業者に与える影響がどの程度あるか
- 甲という製品市場において、A社のほかにも「複数の有力なメーカーが存在する」
- 仕切価格の修正は、「品目により一律1~3%引きにとどまり」、
数量・価格などが増加するにつれて、それに対する比率が変わることがない - A社製甲製品の「購入額が上位10位以内に入ればよい」というのみ
これらの理由からA社の
「競争者や卸売業者に与える影響は小さい」
と考えられ、独占禁止法上問題となるものではないと判断された事例です。
注意すべきポイント
仕切価格の修正が、A社による卸売業者のユーザーへの納入価格への関与をもたらし、
「納入価格の拘束の手段」として違法行為の実効性が認められる場合、独占禁止法上問題となります。