リベートは取引先との関係を強化し、販売促進を図るための手段として広く利用されています。
しかし、その運用方法によっては独占禁止法に違反するリスクがあるため、慎重な取り扱いが必要です。
本記事では、まずリベートの基本的な定義や目的、割引との違いなどを解説し、次に会計処理の観点からリベートの具体的な取り扱いについて詳しく述べます。また、独占禁止法における注意点や問題となる事例、問題とならないリベート条件の具体例を挙げ解説していきます。
目次
独占禁止法における基本的なリベートの考え方
リベートの定義
リベートとは、取引先との商取引において、購入量や売上実績など一定の条件を満たした場合に、事業者が取引先に対して後日還元する金銭的または経済的な利益を指します。
リベートは、その性質上、即時に適用される割引とは異なり、主に販売促進や取引関係の維持・強化を目的として提供されます。具体的には、一定期間内に達成した売上高に基づく現金返金や、次回取引時に使用可能なクーポンの発行、さらには特定の商品やサービスの提供など、多岐にわたる形態が存在します。リベートは特に、販売促進活動や流通経路の最適化において重要な役割を果たします。
例えば、販売目標を達成した場合にボーナスとして支払われる形式のリベートは、取引先のモチベーション向上につながります。一方で、その運用方法によっては、独占禁止法に抵触するリスクもあるため、慎重な管理が求められます。具体的には、リベートが再販売価格の拘束や特定の取引先に対する差別的な優遇条件に関連付けられる場合、法的問題を引き起こす可能性があります。
リベートの目的と効果
リベートは、企業間取引において販売促進や取引関係の強化を目的とした施策として広く用いられています。その目的と効果について具体的に解説します。
リベートの主な目的は、以下の通りです。
販売促進
リベートは、取引先に対して販売目標を設定し、その達成をインセンティブとして促すために活用されます。
例えば、一定期間内に特定の商品を100個以上販売した場合に還元を受けられる条件を設定することで、取引先の販売意欲を引き出します。これにより、企業は売上増加を狙うことができます。
取引関係の強化
特定の取引先に対してリベートを提供することで、長期的な協力関係を築くことが可能です。例えば、特約店や代理店に独自のリベート制度を導入することで、他社製品よりも自社製品を優先して販売するよう促す効果があります。
また、リベートの効果は、以下の通りです。
売上の増加
リベートは取引先の販売意欲を刺激し、売上増加を直接的に促します。例えば、販売目標達成に応じたリベートを設定することで、取引先が積極的に営業活動を行うようになります。
関係の安定化
リベートの提供により、取引先との関係が安定し、他社に乗り換えられるリスクを軽減します。これにより、長期的なビジネスパートナーシップが築かれます。
ただし、例えば、再販価格の拘束をするようなリベートは独占禁止法に抵触する可能性があります。節度を守って運用することが求められます。
リベートと割引の違い
リベートと割引は、いずれも取引先への金銭的メリットを提供する手法ですが、適用のタイミングや提供方法、目的において大きな違いがあります。それぞれの特徴を分かりやすく解説します。
リベートと割引の適用タイミングの違い
割引は、取引が成立した時点で、即時に価格を引き下げる方法です。例えば、商品を通常価格10,000円のところ、8,000円で販売するようなケースが該当します。
リベートは、取引成立後、一定条件(売上高や購入数量など)を満たした場合に、後日還元される金銭的メリットです。例えば、月間購入額が100万円を超えた場合に、10万円をキャッシュバックする形式です。
リベートと割引の提供方法の違い
割引は、商品やサービスの価格そのものを購入時に直接引き下げます。
リベートは、金銭還元(キャッシュバック)、クーポン提供、追加商品提供など、多様な形態で提供されます。
リベートと割引の目的の違い
割引は、短期間で販売数量を増やすための施策です。
リベートは、長期間にわたる販売促進や取引関係の維持・強化を目的としています。
会計処理におけるリベートの考え方
販売奨励金と売上割り戻しの2つがあるとされています。
売上割戻し
事業者がその取引先に対して、「売上高や売掛金の回収高に比例又は売上高の一定額ごと」に、「売上代金を返戻する(いわゆる値引き・リベート)」する(交際費には該当しない)取引先の営業エリアの特殊事情、協力度合い等に応じた金額を支出する費用も売上割戻しとして認められます。
販売奨励金(販売促進費)
流通対策費(販売促進費)とされており、主に「自社製品等の販売促進を目的」として行われるもので、特に「支払い基準が定まってない」幅広いケースで利用されています。(交通費には該当しない)
例として、「特約店等の取引先の従業者に対し、販売目標を達成した場合に交付する旅行クーポン券、現金等はは販売促進費として認められる」とされています。(但し源泉徴収の対象となる)
販売促進費の様々なリベート例
メーカーと取引先の流通事業者(主に卸売、小売店)との取引条件として、仕切価格とは別にリベートを提供するケースが実態として、以下のように複数あると考えられています。
- 仕切り価格は下げられない、その代わりに取引高に応じた条件にする
- 年間販売数量の達成状況、特定の注力商品の重点販売を特別条件にする
- 指定するツール、システムの利用による取引を条件にする
- 返品率を○○%に抑えることを条件とする
- 新商品の販売促進のためにブース設置等の棚割りを優先的に確保することを条件とする
- 来店したお客様に対する適切な商品説明のための教育を条件とする
独占禁止法におけるリベートの注意点
リベートは取引促進に役立つ一方、その運用次第では独占禁止法に違反するリスクがあります。
特に、「指定価格での販売」「競合品の取り扱い制限」「特定地域での販売」といった条件を課す行為は、再販売価格の拘束や排他条件付取引または拘束条件付取引として問題視される可能性があります。
また、特定の卸売業者を通じた取引を条件にリベートを提供する帳合取引は、取引先の自由な仕入れを制限する行為とみなされる場合があります。
さらに、占有率リベート(特定メーカーの商品占有率に応じたリベート)や、購入量に応じてリベート率が上がる累進リベートが、競争品の取り扱いを阻害する場合も注意が必要です。
不透明な基準や特定の取引先だけを優遇するリベートは不公正な取引方法とされるリスクがあるため、透明性と公平性を保つ運用が重要です。
独占禁止法上問題となるリベート条件の事例
リベートの供与自体が問題になるケースはほとんどないと考えられますが、再販売価格の拘束の可能性があるリベートを条件にすることは、独禁法上の問題となる可能性が高いため注意が必要です。
条件を提示する違反行為の例
- 「この価格以上で販売してくれたらリベートを払います」
- 「約束を破ったらリベートカットor商品を卸しません」
- 「指定エリア、流通先に限定して販売すればリベート払います」
独占禁止法上問題とならなかったリベート条件の事例
福祉用具メーカーによる店舗販売業者のみに対するリベートの供与
市場において有力な福祉用具メーカーが販売するにあたり、インターネット販売業者は対象とせず、店舗販売業者にのみリベートを供与することが、独禁法上問題にならない、と認められていたケースです。
前提となる条件
- 福祉用具メーカーシェア約30%(第1位)を占めており、小売業者(店舗販売業者、インターネット販売業者)を通じて一般販売している
- 福祉用具Aの販売価格は、店舗販売事業者よりもインターネット販売業者の方が1割ほど安い
- 当該商品は「身体に装着して利用する」ものであり、消費者の個体差や症状によっての効能の違いにより複数販売されている。
インターネット販売における課題
- 販売員が商品の効能に関する適切な説明ができない
- 効能ごとに必要な種類の商品の在庫が確保されておらず販売ロスが大きい
店舗販売業者に対するリベートの条件
- 来店した一般消費者に「直接適切な商品説明を行うための教育」を行う
- 「種類ごとに一定の在庫数を常時確保」する
正当な理由
- 店舗販売において、「一般消費者に対する適切な商品説明をするための販売コストを支援する」のが目的であること
- インターネット事業者の「卸売価格を引き上げるものではない」こと
まとめ
繰り返しになりますが、「各取引先の流通業者ごとの差別化による事業活動の制限
(再販売価格の拘束、経済的な不利益など)」することがなければ、
「一般消費者の保護の観点」「販促における合理的な理由」などにより、
リベートの供与は問題とならないケースが多くあります。
選択的流通の対策を考える際も同様の考え方が必要となりますので、
独占禁止法の基本的な知識を身に付けつつ、自社製品にあった流通対策を行うことを推奨しております。