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優越的地位の濫用について

公開日
2020年03月03日 16:41
最終編集日
2024年11月21日 11:30

「優先的地位の乱用」と間違った名前で認識されることも多い用語ですが、正確には「優越的地位の濫用」と言います。

言葉だけでは、どのような規制項目なのか、具体的に何をしたら規制対象となるのか分かりにくい項目です。

しかし、この項目はメーカー、小売事業者共に、「取引の相手方から受ける不当な要求を断る契機となる」可能性があるため、この機会に基本的な知識の理解を深めましょう。

まずは実際に優越的地位の濫用の事例がどれほど実際に存在するのか見てみましょう。下記の表は優越的地位の濫用の違反の疑いにより公正取引委員会から排除措置命令や課徴金などの対象となった事例の一覧です。

▼優越的地位濫用の過去事例

企業名課徴金等概要
平成16年セブンイレブンジャパン排除措置命令FC店の見切り販売を禁止
平成26年ダイレックス株式会社12億7416万円人材無償派遣強制、協賛金強制、火災による損失負担強制
平成29年阿寒農協注意賦課金の徴収
平成30年岩手県産警告正当な理由なく支払いを減額
平成31年大阪ガス警告売れ残りを買取強制
平成31年Amazon自主的に取り下げたためなし出品者に対しポイント付与金額負担の強制
令和元年丸井産業警告取引先に社員旅行費要求

優越的地位の濫用は違反すれば「課徴金の対象(取引額の1%)」となる項目であり、取引の規模が大きいと、ダイレックス社のように高額な課徴金が課されることもあり得るため、非常に重要な規制項目であると言えます。

Amazonのような強い販売力を持つプラットフォームが「出品者に対してポイント付与金額を強制する」などのポイント原資負担をメーカーに強いるなどのリベートも重要な問題となります。

令和2年には楽天市場の「送料無料ラインの設定と負担を強いる」など、対応が難しい事業者への負担が多くなれば規制の対象になる可能性があります。

「準備が整わない一部店舗は適用対象外」
「安心サポートプラグラム」

によって緊急停止命令は取り下げとなっています。

優越的地位の濫用とは?

優越的地位の濫用

簡単に言えば、「相手方に言うことを聞かせられるぐらい取引の立場が上であることを利用して、不当な要求を渋々認めさせること」です。

A社がB社に優越的地位の濫用を行うと、B社の自由かつ自主的な判断による取引を阻害すると共に、B社は競争者との関係で不利になる一方、A社は競争者との関係で有利になります。このような行為は、公正な競争を阻害するため、独占禁止法の規制対象となります。

細かく見れば、公正取引委員会が公表するガイドライン上で優先的地位の濫用は「自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、取引の相手方に対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えること」と定義されています。

すなわち、優越的地位の濫用は

 ・相手方に優越しているかどうか
 ・正常な商慣習に照らして不当かどうか
 ・濫用行為類型

この3点で判断されます。

1)相手方に優越しているかどうか

A社がB社に優越していると言うのは、A社との取引が継続できなくなってしまうと、B社の事業経営に大きな支障を来すため、A社からの著しく不利益な要求をB社が受け入れざるを得ないような状態をさします。「A社と取引ができなくなるぐらいなら、言うことを聞いた方がましだ」と言う状態です。

この判断に当たっては、

 ・B社のA社に対する取引依存度
 ・A社の市場における地位
 ・B社にとっての取引先変更の可能性
 ・その他A社との取引の必要性を示す具体的事実

などの取引の必要性を示す具体的事実を総合的に考慮します。
メーカーが小売に優越することが多いですが、「この流通チャネルで販売できなくなると、事業経営が困難になる」など、「小売やAmazonなどのECプラットフォームがメーカーに優越する」ことも十分に考えられます。

逆に小売店同士で販売競争しなくても売れるブランド力が高い製品はメーカーは、小売店側に対しての優越していると言えるため注意が必要です。

2)正常な商慣習に照らして不当かどうか

正常な商慣習とは、公正な競争の維持、促進の立場から促進されるものを言い、既に存在する商慣習に従っていてもそれが競争を阻害するようなものであれば規制対象となります。すなわち、優越的地位の濫用は「公正な競争秩序の維持、促進の観点から個別の事案ごとに判断される」ということを意味します。

市場への影響は考えなくてよいが、現に存在する商慣習に合致しているからといって、正当化が認められるわけではない。

3)濫用行為類型

濫用の基準については、独占禁止法上明らかな行為類型ごとにガイドライン上で明らかにされています。

濫用行為類型は

 ・購入・利用強制
 ・金銭、役務その他経済上の利益を提供させること
 ・取引に関する制限

の3つに分かれます。

濫用行為累計

1)購入・利用強制

合理的な必要性がないのに関わらず、本来の取引に関係ない商品や役務を購入させること。購入を取引の条件とする場合など、購入を余儀なくさせている場合を含みます。
「取引続けたかったらこの商品も買ってくださいよ」など

2)金銭、役務その他経済上の利益を提供させること

「経済上の利益の提供」とは、協賛金、協力金等の名目のいかんを問わず行われる金銭の提供(補填、リベートも含む)、作業への労務の提供等を言います。

(1) 受領拒否
商品を購入する契約をした後に、正当な理由がないのに、商品を全部または一部を受け取らないこと。

(2) 返品
返品する条件が不明確であらかじめ予想できない不利益を与える場合やその他正当な理由がない場合に返品すること。

売れ残りのリスクを合意して仕入れた商品の返品を強いることも該当する可能性があります(賞味期限、在庫過多など)

製造を委託している場合、受入条件の設定と品質チェックを行っていないにも関わらず、一定期間が経過した後に品質を理由にした返品を強いる行為も違法性の高いといえます。

(3) 支払遅延
正当な理由がないのに「支払い期限を守らない」「一方的に遅く設定する行為、支払いを遅らせる」などすること。

下請法の違反事例が多く、特に注意が必要です。

(4) 減額
商品または役務を購入した後で、正当な理由がないのに一方的に契約で定めた対価を減額すること。契約で定めた対価を変更することなく、商品や役務を変更して実質的に対価を減額することも含みます。

(5) その他取引の相手方に不利益となる取引条件の設定等
a) 取引の対価の一方的決定
一方的に著しく高いもしくは低い対価での取引を強制すること。
十分な協議が行われたか、他の取引の相手方と比べて差別的かどうか、相手方の仕入れ価格を下回る
かどうか、通常の販売価格と購入価格との乖離、需給関係などを勘案して総合的に判断します。

b) やり直しの要請
正当な理由がないのに、商品の受領や役務の提供を受けた後にやり直しを要請すること。

c) その他
上記の類型に該当しないような行為であっても、取引上の地位が優越している事業者が、
一方的に取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施する場合に、相手方に正常な
商慣習に照らして不当に不利益を与えるときは、優越的地位の濫用として問題となります。

セブンイレブンがフランチャイズ店に対し、「販売期限が迫った商品の値引き販売を禁止していた」ことは、上記のどの事例にも該当しませんが、優越的地位の濫用であるとして排除措置命令を受けました。

※注意点
上記の類型に関しては、商品に瑕疵があるなど相手方の責に帰すべき事由がある場合、当該行為が直接相手型の利益になる場合、予め相手方と契約で定めていた場合、予め相手方の同意を得て、損害を自己負担する場合などは問題ないとされています。詳しくはガイドラインをご覧ください。

公正取引委員会が提供している資料はこちら

おわりに

では不当なリベート要求は断れるのでしょうか。

優越的地位の濫用ガイドラインを概観すると、「相手方が言うことを聞かざるを得ない状況で、不当な不利益を与えることは原則違法」と考えることができます。

規制対象はメーカーに限らず、小売事業者やショッピングモール(Amazon、楽天市場、Yahoo!ショッピングなど)の取引の相手方全体であるため、相手方への要求には常に注意が必要であり、逆に言えば自分が受けている不当な要求を優越的地位の濫用であるとして拒否することができるかもしれません。

ガイドラインと合わせて、本記事が優越的地位の濫用について理解を深める一助となれば幸いです。

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