再販売価格の拘束とは(独占禁止法20条)
再販売価格の拘束とは事業者が流通業者の販売価格を一方的に決定すること。
流通業者間の価格競争を減少、衰退させるものとして原則違法とされる。
再販売価格の拘束は、
「直接的な拘束」
「間接的な拘束」
の2種類に分けられます。
1)再販売価格の直接的な拘束とは
この価格で販売せよ、と取り決めてしまうことです。具体的に言えば、
- 価格調整に従うことを文書や口頭による契約で定めること
- 価格調整に従うことへの同意書を提出させること
- 価格調整に従うことを取引の条件とすること
- 売れ残った商品を値引き販売させずに買い戻すことを取引の条件とすること
などが挙げられます。要するに、メーカーが示した価格で販売するようにさせる取り決めは原則としてNGです。
2)間接的な拘束とは
価格調整に従わない場合に、経済的不利益を課す、あるいは課すことを示唆する等、何らかの人為的手段により価格調整に従わせることです。 経済的不利益とは、
- 出荷量の削減
- 出荷価格の引き上げ
- リベートの削減
などが挙げられます。
もちろん、これの裏返しで、価格調整に従う場合に出荷価格を引き下げたり、リベートを増大させる等して利益を与えるようなことも違法となります。
再販売価格の拘束 | 間接的拘束の例 |
---|---|
文書や口頭による取り決め | 出荷量の削減 |
同意書の提出強制 | 出荷価格の引き上げ |
価格調整に従うことを取引の条件にする | リベートの削減 |
買い戻しを取引の条件にする | リベートの供与 |
上記に無いような事例であっても、流通業者がメーカーの指定する価格で販売することについての実効性が確保されていれば、原則として違法となります。
しかしながら、再販売価格の拘束が「競争促進効果」や「ブランド間競争」が促進され、商品の需要が増大し、消費者の利益の増進が図られ、再販売価格の拘束以外のより競争阻害的でない手段で競争効果が生じ得ない場合、「正当な理由」があるとされ例外的に違法とならないとされている。
3)「正当な理由」とは
1.再販売価格の拘束によって「ブランド間の競争が促進される」
2.当該商品の需要が増大し、「消費者の利益の増進が図られる」
3.他の方法によっては「当該競争促進効果が生じ得ない」
4.必要な範囲および「必要な期間の拘束である」
とされています。
また、メーカー希望小売価格を流通業者に通知する、流通価格を調査することはなんら問題ないとされている。
違法とされやすい価格の設定方法について
「〇〇円で売って欲しい」ではなく「だいたいこのくらいで売るのはどうか」と言えば、明確に価格を指示して拘束している訳ではないので独禁法に違反しないのでは?と考える方もいるかもしれません。しかしながら、公正取引委員会が作成したガイドラインはそのあたりも抜け目なく規制しています。
a) メーカー希望小売価格の〇%引き以内の
b) 一定の範囲内の価格(□円以上△円以下)
c) 事業者の事前の承認を得た価格
d) 近隣店の価格を下回らない価格
e) 一定の価格を下回って販売した場合には警告を行う等により、事業者が流通業者に対し案に下限として示す価格
なども販売価格の拘束と捉えられる類型として公正取引委員会が公表するガイドラインに挙げられているため、価格に関する表現がいかなるものであっても関係ないと考えるべきでしょう。
違法とされない行為
「○○で売っても利益が取れそうですよ」
と言った小売店側の利益になるような適切なアドバイスや
「売り手側の販売価格での買上」
は違法とならない、とされています。
a) メーカー希望小売価格の提示
b) 将来の製品価格の予想
c) 相手方の任意性確保されている状態での要請
d) 価格設定のアドバイス
e) 安売りの買上 等
売り手側との有効な関係性を継続するためには、売り手側や一般消費者の利益になるような違法性がない取り組みも重要と考えられます。
販売価格の拘束と判断された事例
やってはいけないことがわかったところで、実際に販売価格の拘束が行われていると公正取引委員会に判断されてしまった事例を見てみましょう。
大手アウトドア用品メーカーの事例
大手アウトドア用品メーカーのA社は、平成28年6月、独占禁止法の規定に基づき排除措置命令を受けました。その内容とは、A社は小売業者が翌シーズンに販売を行う際や、新規業者と取引を開始する際に、以下の販売ルールを定め、従わせていました。
- 販売価格はA社が定める下限以上
- 割引販売は他社の商品も対象にする、または実店舗における在庫処分を目的とする場合にのみ、A社が指定する日以降、チラシ広告を入れずに実施する場合のみ可
販売価格の下限を設定し、それに従わなければ契約を結べないという経済的不利益が示唆されており、これは明らかに販売価格の拘束となります。
育児用品販売企業の事例
公正取引委員会は、育児用品販売企業に対して独占禁止法違反として排除措置命令を行いました。この企業は、特定ブランドの小売価格を「提案売価」として設定し、小売業者にこの価格での販売を強制していたとのことです。これにより、小売業者が自由に価格設定をすることができませんでした。
その価格設定の方法は、育児用品メーカーが、取引先の小売業者に対して自社製品の提案売価を守るよう強く求め、実際にその価格で販売しなければ不利益を被る(指定価格でなければ特定ブランド商品の取り扱いはさせない)と伝えていたのです。この行為により、小売業者は自由に価格を設定することができず、消費者にも影響が出ることになりました。
公正取引委員会は、このような行為が独占禁止法に違反すると判断し、育児用品メーカーに対して排除措置命令を発しました。この命令により、同メーカーは今後同様の行為を行わないことを決議し、その措置を取引先や消費者に通知することが求められました。具体的な措置としては、取引先の小売業者に対して、提案売価の遵守を強制しないことを明確に伝え、公正な取引関係の確立に努めることが求められています。
再販売価格の拘束をした場合はどのような事が起こるか
再販売価格の拘束を行った場合、公正取引委員会から以下のような処分が下されることがあります。
排除措置命令
独占禁止法第20条により、再販価格維持のために行った行為の指し止めや、契約条項削除といった処分を受ける可能性があります。
例えば、以下のような命令を受けることがあります。
①行為の停止命令
強制していた価格設定を中止し、将来的に同様の行為を行わないことを決議するよう命令されます。
②通知と周知の徹底を命じられる
採った措置を取引先や一般消費者に通知し、自社従業員にも周知徹底します。
③行動指針と研修を行う旨命令される
独占禁止法遵守のための行動指針を改定し、定期的な研修と監査を実施します。
④報告義務を課せられる
採った措置を公正取引委員会に報告します。
また、確定した排除措置命令に従わない場合、刑事罰が科せられる可能性があります。
課徴金納付命令
一定金額の制裁金(違反行為をした期間における売上高の3%)を課せられる可能性があります。行政処分であり、前科がつくことはありません。また、100万円以下の金額の場合は課せられません。
この課徴金の対象者は調査を開始する前の10年以内に、排除措置命令か課徴金納付の命令を受けた事業者です。そのため、1回目の違反では対象とはなりません。
再販売価格の拘束に当たらないよう、メーカーが気をつけるポイント
再販売価格の拘束だと指摘されないためには、以下の点に配慮することが大切です。
提案売価の位置づけを明確にする
提案売価はあくまで「提案」であることを明確にし、取引先に強制する意図がないことを伝えます。「この価格はあくまで参考価格であり、小売業者が自由に価格を設定できることを理解しています」と明示することが重要です。メーカーが大企業である場合や、人気企業である場合、小売店側は些細な言動でも「圧力をかけられた」と感じる可能性があります。そうならないように接し方に注意しましょう。
独占禁止法の遵守に関する定期的な研修
メーカーサイドは、自社の従業員に対して、独占禁止法の基本原則や遵守事項に関する定期的な研修を実施するようにしましょう。何が違法行為となるのかの認識がなければ、コンプライアンス違反が発生するためです。
例えば、研修において再販売価格拘束のリスクや違法行為の具体例を共有し、法令遵守の重要性を強調してください。また、法的リスクに対する意識を高めるために、独立した監査部門による定期的な監査を行い、法令違反の予防措置を強化しましょう。
自社独自の販売経路を作る
自社独自の販売経路を確立し、小売業者への過度な依存を避ける方法も試してみましょう。実店舗の開設は難しいとしても、オンライン販売プラットフォームや直販サイトの整備により、直接消費者に対して、商品を希望価格で販売する手段を増やすことができます。これにより、取引先に対する価格指導の必要性を低減し、再販売価格拘束のリスクを回避します。
まとめ
ガイドラインにも公表されている違反とされない例を元にすると、
「○○で売っても利益が取れそうですよ」
といった余計な値下げをせずに適切な市場の価格競争における販売価格のアドバイスが有効であれば、小売店側の自由な値決めの意思決定が確保されていれば、独禁法上の問題にならないと考えられます。
製品を供給しているメーカーだけでなく、小売店の事業利益も価格競争により圧迫されているケースが実態としてあるため、適切な流通対策と市場価格にあった適切な値決めが重要だと思います。