
品物やサービス等の価格設定に悩んだ経験はありませんか?
「値上げしたいけれど売れなくなったらどうしよう」「他社と比べて安すぎる気がするけれど、根拠がない」といった不安を抱える事業者は少なくありません。こうした迷いを解消するために活用されているのが「価格調査」です。
価格調査は、競合の価格を確認するだけではないのです。顧客がどの価格帯なら納得して購入するか、市場の相場がどこにあるのか、自社の価格が利益と釣り合っているのかといった見えにくい情報を、客観的に整理するための調査手法です。
この記事では、価格調査のベースとなる考え方から、代表的な調査手法の特徴や活用場面までの解説します。価格戦略に悩む方にとって、実務で役立つ具体的なヒントが得られる内容です。
目次
価格調査とは?
適正価格設定を行うために実施されるのが価格調査であり、これは品物やサービス等の情報収集や分析を伴います。具体的には、「同種の商品が市場で、いくらで売られているか(市場価格・相場)」「競合他社がどのような価格戦略をとっているか(競合価格)」「顧客がいくらなら納得して購入するか(価格感度)」といった要素を把握します。
単に値段を見比べるだけではなく、価格と購買行動の関係や、値引きが購買に与える影響、逆に価格を上げた際の離脱リスクなど、事業に直結する判断材料を得るのが目的です。
特に、価格が売上・利益に直結する業種(EC、サブスク、小売など)では、価格調査の有無が業績に大きく影響します。売れ筋や適正価格を勘に頼らず、数字ベースで捉えることが重要です。
価格調査の重要性
価格調査が重要なのは、適正な価格を見誤ることで売上や利益に大きな影響が出るからです。
たとえば、価格が高すぎれば顧客が離れ、安すぎれば利益を圧迫します。特に小売業やECなどでは、数百円の違いが売上に直結することもあります。価格は顧客の購買意欲に強く影響する要素であり、「なんとなくこのくらい」といった経験や感覚で決めてしまうと、競合との差別化が曖昧になったり、ブランド価値を損なったりするリスクもあります。
価格調査を行うことで、市場全体の動向や顧客のニーズを把握し、自社にとって最適な価格を選択できるようになります。適切な価格設定は、単なる販売戦略ではなく、経営判断の土台として機能する重要なプロセスです。

ECの販売価格を決める時の考え方
値決めの基本的な考え方
ここでは、値決めの基本的な考え方について解説します。
コスト志向型(コストプラス価格設定)
コスト志向型とは、原材料費や人件費、配送費などのコストをベースに、あらかじめ設定した利益率(マージン)を加えて価格を決定する手法です。最も分かりやすく、安定的に利益を確保しやすいのが特徴で、製造業や卸売業、小規模ECなどで使われている傾向にあります。
例えば、原価が1,500円の商品に30%の利益を乗せる場合、販売価格は1,950円になります。この方法は内部コストの管理ができていれば再現性が高く、在庫や販路が安定している事業に適しています。
しかし、顧客がその価格に価値を見出していない場合や、競合他社の価格と乖離がある場合は売上低迷につながるリスクもあります。
市場や顧客の視点を持たずに価格を決めてしまうと、時代遅れな印象や「割高感」を与えてしまうことがあるため、コストベースでの設定であっても、外部環境を無視しない姿勢が重要です。
市場志向型(競合ベンチマーク型)
市場志向型価格設定は、競合他社の価格を調査・分析し、自社の商品等の価格をその水準に合わせたり、やや下げたりして設定する手法です。
特に、ECサイトや小売業など同質化しやすい市場では有効で、価格に敏感な顧客層へアプローチしやすくなります。競合よりもやや安く設定することで「同等の価値なら安い方を選ぶ」という購買行動を引き出せる点が強みです。
ただし、単に値下げに走ると利益を圧迫するリスクがあるため、販売数の拡大やサプライヤーとの価格交渉、物流コストの削減といった施策と併せて戦略的に活用する必要があります。
また、小規模事業者が無理に価格競争に巻き込まれると体力を失うおそれもあるため、他社との差別化ポイントと併用しながら慎重に判断することが重要です。
価値志向型(バリューベース価格設定)
価値志向型価格設定とは、顧客が品物やサービスから感じる価値を基準に価格を設定する方法です。競合や原価を軸にするのではなく、「この商品ならこの価格でも買いたい」と思ってもらえる付加価値に基づいて価格を決定します。ブランド力のある商品や、独自性・希少性が高い商品に向いており、高価格帯での販売でも顧客の納得を得やすいのが特徴です。
例えば、オリジナル商品を扱うECや、専門性の高いBtoBサービス、アートやデザイン系ビジネスではこの手法が活用されることが多く、価格競争に巻き込まれずに利益を確保できます。ただし、顧客がその価値を理解していなければ成立しないため、ブランディングや情報発信、訴求力のあるマーケティングが欠かせません。価値訴求と価格の説得力を両立できるかが成功の鍵です。
価格調査の代表的な手法
ここでは、価格調査の主なやり方について見ていきましょう。
PSM分析
PSM分析(Price Sensitivity Meter)は消費者が、心理的に「どの価格なら購入に前向きか」「どの価格だと購入をためらうか」といった感覚を数値化する調査手法です。
次の4つの質問を用いて、消費者がどこまで値段を許容できるのかを探ります。
- これ以下だと「安すぎて品質に疑問を持つ」価格
- 「この価格なら理想的」と思える価格
- 高いけれど「なんとか購入できる」と思える価格
- これ以上だと「高すぎて購入したくない」と思う価格
上記質問への回答を集計・グラフ化することで、価格帯ごとの感度を分析できます。上限価格と下限価格の交点から「消費者が買う気になる価格帯」を視覚的に把握することが可能です。PSM分析の特徴は、シンプルなアンケート形式で実施できる点にあります。特に新商品投入時や価格改定前に、直感ではなく根拠を持った価格決定をしたい場合に有効です。
また、既存のターゲット層が想定する「価格の壁」を明確化できるため、マーケティング戦略の再設計にも役立ちます。競合との差別化や利益率の最適化にもつながるため、幅広い業種で活用されているのです。
PSM分析の活用例
EC事業者において、この分析方法は新商品の価格設定や既存商品の価格改定時に活用されています。特に、ユーザーの価格感度を見極めたいタイミングで有効です。
たとえば新商品を販売する際、事前にPSMアンケートを実施し、4つの質問に基づく回答を集計することで、消費者が心理的に許容する価格帯(例えば、3,000円〜4,500円)を把握できます。この情報をもとに販売現場ではA/Bテストを行います。たとえば3,200円と3,800円の2パターンで商品ページを分け、CV率や直帰率、購入単価などを比較して、より高パフォーマンスな価格を選定するのです。
PSM分析によって「あまりにも安いと信頼感を損なう」「あまりにも高いと手が届かない」といったリスクを事前に抑制できるため、無駄な価格試行を避けつつ、的確な価格戦略を構築できます。
また、ダイナミックプライシングを導入しているECでは、分析の結果を基準価格の設計指針として活用可能です。セールや在庫調整時に価格を下げる際も、「安すぎて品質に疑問を持つ価格」を下回らないよう制御することで、ブランド毀損を防ぎつつ収益を確保できます。価格の上下限が可視化されているため、継続的な価格調整や改定判断の根拠としても有効です。
CVM分析の方法
CVM(Contingent Valuation Method、仮想評価法)は、異なる値段帯に対する購入希望の割合を測定し、最適な価格を見出す手法です。複数の価格をあらかじめ設定し、それぞれに対する購入意欲を段階的に確認することで、価格が変化した際の需要の動きを可視化できます。
たとえば、「この商品が7,000円だったら購入したいと思いますか?」という質問に対して、「はい」と回答した人には「では、7,500円ではどうですか?」と価格を上げて再度質問します。
反対に「いいえ」と回答した人には「では、6,500円だったらどうですか?」と価格を下げて再質問します。
このように、価格の上下に応じて購入意向の変化を追うことで、価格帯別の意向率を明確にできます。この分析手法は、価格相場が明確でない新規サービスや商品の価格設定に特に有効です。集計結果を図表化すれば、価格に対する需要の変化が視覚的に理解でき、売上や利益の最大化を目指すうえでの有力な判断材料になります。
CVM分析の活用例
実務では、特にサブスクリプション型サービスの月額料金見直しにおいてCVM分析が活用されています。たとえば動画配信サービスやオンライン学習サービスでは、「1,500円から1,980円への値上げが解約率にどう影響するか」や、「新規ユーザーをどの価格帯で獲得できるか」といった判断に役立ちます。
注目すべきは、価格と解約率との相関です。CVMを用いれば、価格が上がるとどれほどのユーザーが離脱し、逆に価格を下げた場合にどれだけ新規獲得できるかが把握できます。
そのデータをもとに、「解約率が大きく跳ね上がらないギリギリの価格帯」=最適価格帯を逆算できるため、収益性と継続率のバランスを取りながら料金設計を行うことが可能です。
さらに、既存ユーザーと新規ユーザーで価格感度が異なる場合は、CVMの結果をもとに「価格差別化戦略」(初月割引など)へ展開することも可能です。
このように、CVM分析はサブスク事業の価格最適化において、きわめて実践的な意思決定支援ツールといえます。
コンジョイント分析
コンジョイント分析は、ユーザーに複数の商品の組み合わせ(価格・機能・デザインなど)を提示し、「どれを選ぶか」「どれが好ましいか」を評価してもらうことで、各要素が購買意欲に与える影響を数値化する分析手法です。
たとえば、価格と送料、ブランドの3つの属性を設定し、それぞれの水準(価格は3,000円や4,000円、送料は無料や500円など)を組み合わせて選択肢を提示します。
ユーザーの選好データをもとに「価格が下がれば選ばれやすい」「送料無料は重視されている」といった効用値が導き出されます。
この手法では単一要素の評価ではなく、要素間のトレードオフを加味した判断が得られるため、より現実的な価格設計や商品構成の検討に役立ちます。新商品開発やプラン設計前の市場調査として有効です。
コンジョイント分析の活用例
EC事業者において、送料無料ラインの設定は売上や利益率に関わる大切なものです。単に「◯円以上で送料無料」と決めるだけでなく、ユーザーが魅力を感じる条件を正確に把握するには、コンジョイント分析が有効です。
この分析では、「3,000円以上で送料無料」「5,000円以上で送料無料+ポイント還元」「7,000円以上で送料無料+翌日配送」など、価格と特典を組み合わせた複数の条件を設定します。
調査対象者に各パターンを提示し、購入意向をスコアで評価してもらうことで、「送料無料の閾値を下げるよりも、翌日配送の特典が好まれる」といった傾向が明確になります。これにより、利益を圧迫せずに顧客にとって魅力的な条件を設計できます。
たとえば、多くのユーザーが「5,000円以上で送料無料+100ポイント付与」に最も魅力を感じるとわかれば、その条件を基準とした戦略に切り替えることが可能です。
コンジョイント分析は、単一要素の評価では得られない「複数要素の相対評価」ができるため、より精度の高い施策立案に役立ちます。
価格調査のポイント
価格調査を行う際は、単に「どこが一番安いか」を見るだけでは不十分です。特にJANコードや型番がある商品は、ユーザーが価格比較サイトやモール上で簡単に検索・比較できるため、価格差が利益に直結します。こうしたカテゴリでは、競合との価格差を把握したうえで、意図的な価格戦略を設計する必要があります。最安値を狙うか、差別化要素を活かして高値を維持するかは、精緻な調査があってこそ判断可能です。
また、価格調査の本質は「値下げの根拠を得ること」ではなく、「利益を守りながら売れる価格レンジを見極めること」です。たとえば同型番の商品が市場で、2,980円で売られていても、自社がレビュー数や配送スピードで優位性を持つなら、3,280円でも十分に売れる可能性があります。その価格差をユーザーが納得できるかを事前に見極めることが重要です。
さらに、「商品ページの見せ方」や「ポイント還元」「同梱商品」なども含めて総合的に検討することが求められます。価格調査の結果は、単なる競合比較ではなく、収益性を高める戦略的材料として活用すべきです。
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